遺言

遺言を残すメリット

自分のため、相続人になる人のための遺言

平成24年度の遺産分割事件では、財産額が1,000万円以下の家庭裁判所での調停件数は全体の32.3%(2824件)にも及んでいます。5,000万円以下では全体の75.7%にもなります。

本人は「それ程、財産があるわけではない」と思っていても、残された側では揉めてしまうのが現実のようです。

自分のために 家族のために

遺言は死を前提にしたものなので、ご家族から「遺言を残して欲しい」と言われた時、あまり気持ちの良いものではないと思います。
しかし、人間は皆、死に向かって毎日を生きています。
「自分の人生をどう終わらせるか」
これまでの自分の人生を振り返り、これからの未来を考えるいい機会になるのではないでしょうか。

遺言の効力

遺言の効力は遺言者が亡くなった時から発生します。
効力が発生するまでは、いつでも全部の撤回、もしくは、一部の撤回が出来ますし、遺言に記載した財産を処分することも出来ます。

  1. 遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部または一部を撤回することができる。
  2. 遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分については、遺言を撤回したものとみなす。遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄したときも、同様とする

病気や高齢などで遺言を残すために必要な意思能力を有していないと認められる場合には、無効となる場合があります。

  1. 15歳に達した者は遺言をすることができる
  2. 遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない。

「すべての財産を長男に相続させる」という遺言も無効ではありませんが、法定相続人には遺留分があり、遺留分減殺請求がなされると遺留分を侵害する限度で無効となります。

遺留分は、配偶者、子供、直系尊属(父母、祖父母)に認められる権利で、遺産全体の1/2、直系尊属のみが相続人の場合は1/3となります。

例:遺産が6,000万円で、相続人が配偶者、子供2人の場合
遺留分は1/2の3,000万円となり、配偶者1,500万円、子供各750万円の割り当てとなります。
長男に6,000万円すべてを相続させるといった遺言があった場合には、配偶者の遺留分にあたる1,500万円の部分は遺留分を侵害していることとなります。
遺留分を侵害しているからといって無効になるわけではなく、遺留分権利者が遺留分減殺請求をしなければ、そのまま有効なものとなります。

裁判外での遺留分減殺請求には、内容証明郵便で請求書を送るといった方法があります。
話し合いなどで解決するのが一番良いのですが、解決しない場合には、調停 → 裁判への流れとなります。

遺言執行者を指定し、遺言の内容を確実に実行してもらうことが出来ます。また、遺言執行者を指定することで、相続人間の紛争を未然に防ぐことが出来ます。

  1. 遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有します。
  2. 遺言執行者がある場合には、相続人は相続財産の処分その他遺言の執行を妨げる行為をすることができません。
  3. 遺言執行者がある場合に相続人やその他の者が相続財産を無断で売却した場合、その売却は無効となります。

遺言の種類・説明

遺言の種類、メリット・デメリット

通常の遺言には3種類があり、それぞれにメリット・デメリットがあります。
それぞれの特徴や、作成方法、費用などを説明していきます。

遺言はまだ必要ないという方も、財産目録相続関係説明図を作成しておくことをお勧めします。財産にはどのような物があって、どこにあるかがわからないと、相続する側に何かと困難が生じかねません。

自筆証書遺言

その名の通り、自分で書く遺言です。
自分で書く遺言でも決まりを守っていないと無効となってしまう可能性があります。

自筆証書遺言のメリット

自筆証書遺言のメリットは費用が掛からず、手軽に作成できることです。
遺言者が、「全文」「日付」「氏名」をすべて自書して作成します。

間違えた場合の変更や加筆の方式は厳格に決められているため、間違えた場合は破棄して、書き直す方が無難です。

自筆証書遺言のデメリット

遺言としての要件が欠けており無効となってしまう可能性があります。

自筆証書遺言の場合、「本当に本人が書いたものか」ということが争いの種になる可能性があります。また、家庭裁判所の検認手続きが必要で、検認を受けないで遺言書を開封したり、遺言手続きを実行した場合、5万円以下の過料に処されることがあります。

検認とは遺言書の現状を確認し、証拠を保全するためのもので、遺言書の中身の有効・無効を判断するものではありません。
検認を受けていない遺言書では、不動産の登記手続きや金融機関の手続きも出来ません。

検認に必要な費用
  • 遺言書(封書の場合は封書)1通につき収入印紙800円
  • 連絡用の郵便切手(申立てされる家庭裁判所へ確認してください。)
検認に必要な書類
  • 申立書 1通
  • 遺言書
  • 遺言者の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
  • 相続人全員の戸籍謄本
    ※事案によって、追加書類が必要になります。

検認に関する詳細はこちらから

また、自筆証書遺言は紛失や偽造や隠蔽などの危険がありますので、保管方法にも注意が必要です。

自筆証書遺言作成のポイント

自分で書いて作成する

「全文」、「日付」、「氏名」を自書し、押印します。
印鑑は認印でもかまいませんが、実印が望ましいです。

遺言書を入れる封筒の表書には「遺言書」と記載し、裏書に「作成日」、「署名」、遺言書と同じ印鑑で押印をします。
封には遺言書と同じ印鑑で封印します。
検認前に開けてしまわないように「開封せずに家庭裁判所に提出し、検認を受けること」と裏書に書いておくと良いです。

手が不自由で書けないなど、自書が難しい場合は公正証書遺言を検討しましょう。

遺言の内容

不動産の相続について書く場合、登記簿を取得し、登記簿の記載通りに正確に書きましょう。
預金については取引銀行・支店名・口座の種類など、その他の金融資産についても詳細を記載しておきます。
自動車や貴金属等の動産についても記載します。

遺言書に記載されなかった財産については、遺産分割の対象となりますので、「その他すべての財産は○○ ○○に相続させる」などと記載しておくと、遺産分割協議の必要が無くなります。

残された相続人が困らないように財産目録相続関係説明図を作成しておくと、遺産分割協議や相続税の申告まで円滑に進めて行けます。(相続関係説明図を作成する際に取得する戸籍謄本は、検認や、その後の遺言執行の際に使用できます。)

遺言書の内容の一部を訂正したい場合は、厳格で複雑な規定がありますので、書き直した方が良いです。
書き損じた場合も同様です。

自筆の証拠
自筆であることを証明するために、遺言書には実印を押し、印鑑登録証明書と一緒に保管します。
遺言を書いている状況を録画しておくと、より信憑性を高めることが出来ます。
書き終わった後に家族へのメッセージを残しておくのも良いと思います。

公正証書遺言

公証人と証人2名の立会いのもとに公証役場で作成されるため、もっとも安全・確実な遺言の方式となります。
遺言者が公証役場に出向くことが困難な場合には自宅や入院先での作成も出来ます。
その場合は公証人出張のための旅費や日当が掛かります。

公正証書遺言のメリット

証人2名の立会いのもと、公証人が読み上げる遺言書の内容を確認しながら作成するので、まず無効になりません。
遺言書は公証人が作成するため、病気や手が不自由で書けない等で自書が難しい場合でも問題ありません。

遺言書の「原本」が公証役場に保管されますので、紛失や偽造や隠蔽の恐れがありません。
遺言者には「正本」、「謄本」が交付されます。

公正証書遺言の場合、家庭裁判所の検認手続きが必要なく、相続開始後ただちに遺言を執行できます。

公正証書遺言のデメリット

公正証書遺言を作成する際には必ず2名以上の証人が必要ですが、下記の者は証人になることが出来ません。

  1. 未成年者
  2. 推定相続人、受遺者及びその配偶者並びに直系血族
  3. 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記、雇人

配偶者と子が推定相続人である場合、遺言者の兄弟姉妹や甥・姪は証人になることができますが、(兄弟姉妹は傍系血族)証人に身内や友人などを選んだ場合は、遺言の内容を知られてしまうことになります。
証人が見つけられない場合は、業務に関する守秘義務のある行政書士、もしくは司法書士に依頼する形が適切かと思います。

自筆証書遺言の場合、遺言の対象とする財産の価額に応じて手数料が掛かります。
また、自宅や入院先に出張してもらった場合、手数料が上乗せになります。

内容 目的の価額 手数料
証書の作成 100万円以下 5,000円
100万円を超え200万円以下 7,000円
200万円を超え500万円以下 11,000円
500万円を超え1,000万円以下 17,000円
1,000万円を超え3,000万円以下 23,000円
3,000万円を超え5,000万円以下 29,000円
5,000万円を超え1億円以下 43,000円
1億円を超え3億円以下 43,000円 + 5,000万円ごとに13,000円加算
3億円を超え10億円以下 95,000円 + 5,000万円ごとに11,000円加算
10億円超 249,000円 + 5,000万円ごとに8,000円加算
遺言加算 目的価額合計が1億円以下 11,000円
祭祀主宰者の
指定
11,000円
(祭祀主宰者は、遺骨の管理や祭祀財産(墓地や仏壇など)を承継します。)
出張費 日当: 2万円(4時間以内は1万円)
旅費: 実費
出張手数料:証書作成手数料が5割増

「目的の価額」は、遺言により遺贈、又は相続させる財産の価額となり、財産の総額ではありません。

計算例(1)相続人1人の場合
相続人1人に対し、5,000万円相当の財産を相続させる旨の遺言では、29,000円+遺言加算11,000円=40,000円となります。

計算例(2)相続人3人の場合
相続人3人に対し、8,000万円、2,000万円、1,000万円相当の財産を相続させる旨の遺言では、43,000円+23,000円+17,000円=83,000円となります。

秘密証書遺言

秘密証書遺言とは、遺書の内容は秘密にしたまま、存在のみを証明してもらう遺言のことです。公証人と証人2名の立会いのもとに公証役場で作成されます。

秘密証書遺言のメリット

公証人・証人2名により存在を証明してもらえるので、自筆証書遺言のように、遺書が本物かどうかといった争いは起きません。

基本的には自筆証書遺言と同じく自分で遺言書を作成しますが、署名を自署していればよく、本文はパソコンを使ったり、または代筆して貰ってもかまいません。
病気等で自書が難しく、また遺言にあまり費用が掛けられない場合にも作成することが出来ます。

費用は、財産の額や内容に関係なく 11,000円 となります。

秘密証書遺言のデメリット

自筆証書遺言と同じく、遺言としての要件が欠けている場合には無効となってしまう可能性があります。また、遺言執行の際には家庭裁判所の検認手続きが必要になります。

秘密証書遺言を作成したということは公証役場に記録されますが、遺言書の保管は自分でするため、紛失・未発見のおそれがあります。

証人が2名必要ですが、公正証書遺言と同じく下記の者は証人になれません。

  1. 未成年者
  2. 推定相続人、受遺者及びその配偶者並びに直系血族
  3. 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記、雇人

各遺言書の比較

自筆証書遺言 公正証書遺言 秘密証書遺言
作成方法 遺言者が「全文」、「日付」、「氏名」を自書して作成。 公証人が読み上げる遺言書の内容を確認しながら、公証人が作成 遺言者が作成した遺言書を公証役場に持って行き作成。
費用 かからない 財産の価額、内容に応じて 11,000円
証人 不要 2名以上必要 2名以上必要
検認 必要 不要 必要
保管方法 自分 原本は公証役場に保管。正本、謄本は自分 自分