遺産相続
相続財産、相続人、相続税
相続財産の種類や相続人、相続税の算出について
相続が開始すると亡くなった方の財産はすべての相続人が承継することになります。
相続財産は、現金のほか、不動産・金融資産(貯金や株等)・動産(乗用車、貴金属等)、および借金などの負債が相続財産となります。
死亡退職金、生命保険金、遺族年金等の受取人が相続人の中の特定の者である場合(夫の生命保険金の受取人が妻や子供になっている場合等)は、基本的に相続財産にならず、受取人のものとなりますが、本人が受取人になっている場合は相続財産に含まれることになります。
また、生活保護受給権、公営住宅の使用権など一身に専属したものは相続財産に含まれません。
相続人になる人
子供がいる場合 | 配偶者・子供(養子) 子供が亡くなっていて孫がいる場合は孫、孫も亡くなっていてひ孫がいる場合はひ孫 |
---|---|
子供がいない場合 | 配偶者・亡くなった方のご両親 |
子供もご両親もいない場合 | 配偶者・亡くなった方のご兄弟 兄弟が亡くなっていて甥または姪がいる場合は、甥・姪 |
配偶者がいない場合は、子供のみ、またはご両親のみ、もしくはご兄弟のみとなります。
子供がいる場合はご両親・ご兄弟は相続人にはならず、ご両親がいる場合はご兄弟は相続人にはなりません。
相続人には欠格事由があり、下記に該当する場合には相続人になれません。
- 相続人が故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、 又は至らせようとしたために、 刑に処せられた場合
- 相続人が、被相続人の殺害されたことを知って、 これを告発せず又は告訴しなかった場合
- 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた場合
- 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、 これを取り消させ、 又はこれを変更させた場合
- 相続人が、相続に関する被相続人の遺言書を偽造・変造・破棄・隠匿した場合
相続税について
基礎控除額・・・3,000万円+600万円×法定相続人の数(平成27年1月1日改正)
例:法定相続人が配偶者と子供2人の場合の基礎控除額は(亡くなった年の税法によります)
4,800万円 となります。
この場合、遺産総額が4,800万円以下の場合は相続税がかかりません。
- 死亡した方の財産から借入金等の負債と葬式費用を引いた金額が基礎控除額以下の場合、相続税はかかりません
- 生命保険金や死亡退職金の非課税限度額・・・それぞれ500万円×法定相続人の数
課税遺産の計算例
具体例
現金・預金・株式 | 1,000万円 |
---|---|
土地・建物 (居住用宅地・事業用宅地などには特例が適用される場合があります。) |
2,000万円 |
生命保険金 (入金額6,500万円ー500万円×3(非課税限度額)) |
5,000万円 |
遺産合計 8,000万円 |
法定相続人が配偶者と子供2人の場合、基礎控除額は4,800万円となり、遺産総額から基礎控除額を引いたものが課税遺産総額になります。
この場合の課税遺産総額は 8,000万円 – 4,800万円 = 3,200万円 となります。
相続税の計算例
上記例を法定相続分で分割したものと仮定した場合
- 配偶者
- 3,200万円 × 1/2 = 1,600万円
- 子供
- 3,200万円 × 1/4 = 800万円
- 子供
- 3,200万円 × 1/4 = 800万円
となります。
相続税は下記となります。
課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | – |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
上記表から、相続税は下記の金額となります。
- 配偶者
- 1,600万円 × 15%(税率) - 50万円(控除額) = 190万円
※配偶者控除制度 0円 - 子供
- 800万円 × 10% = 80万円
- 子供
- 800万円 × 10% = 80万円
※配偶者は法定相続分に対する税額控除の制度があります。
(配偶者の取得した遺産額が1億6,000万円まで、または1億6,000万円超えても法定相続分を超えない場合には税金はかかりません。)
※申請する必要があります。
相続手続き
相続の承認・放棄、必要な手続き・注意点について
単純承認・相続放棄・限定承認
相続の承認・放棄は、自己のために相続の開始があったことを知った時から 3ヶ月以内の考慮期間内にしなければなりません。
考慮期間が経過してしまうと単純承認したものとみなされます。
借金が多く、相続放棄を行うべきである場合に単純承認をしてしまうと、亡くなった方の借金を背負うことになり、自分の財産まで失うといった事態になりかねませんので、十分に調査し判断する必要があります。
単純承認
相続の基本的なもので、
- 相続放棄も限定承認もしないまま3か月が過ぎたこと
- 相続人が遺産を処分したとき
- 相続人が遺産を隠したり、私的に消費したり、財産目録にわざと載せなかったとき
に単純承認したものとなります。
単純承認は単にその旨の意思表示をすることで足ります。
何もしなくても単純承認したものとなります。財産よりも借金などが多くある場合に何もしないと、その借金も相続することになってしまうので注意が必要です。
相続放棄
財産よりも借金のほうが明らかに多い場合や、どちらが多いか分からないけれども関わりたくない場合には、相続を放棄することができます。
亡くなった方が誰かの借金の保証人となっていた場合、その時には債務がなくても、後から債務が発生することもあります。
相続放棄は3ヶ月の考慮期間内にする必要があります。
相続を放棄した者は最初から相続人でなかったものとみなされるため、通常は 子供 → 両親 → 兄弟姉妹 と相続権が移っていきます。
借金があり相続放棄をしたい場合には、配偶者、子供、ご両親、兄弟姉妹等、すべての相続人で相続放棄をする必要があります。
一旦、相続放棄をした後は、その後に莫大な財産が見つかったとしても相続放棄は撤回できません。
判例では、相続人が相続開始後1年近くが経過してから多額の債務があることを知った場合にも、相続財産が全くないと信じ、かつ知らなかったと信ずるに相当な理由があるときは、相続放棄の申請を認めているケースがあります。
相続放棄は一定の方式のもと、家庭裁判所に対する申述をしなければなりません。
限定承認
財産と借金とどちらが多いのかがよくわからない場合、手放したくない不動産があるが借金もけっこうあるという場合には、限定承認という方法があります。
限定承認は、遺産の範囲内で亡くなった方の債務を弁済するもので、相続した財産だけでその債務を完済できない場合でも、相続人自身の財産でその不足分を支払う必要はなくなります。清算の結果、残った財産があれば相続人に帰属することになります。
限定承認は、相続財産管理人の選任(相続人が複数の場合)や財産目録の作成、催告、公告、債権者への弁済など複雑な手続が必要になります。
また、相続人が複数いる場合は相続人全員が共同して、3ヶ月の考慮期間内に家庭裁判所に対する申述をしなければなりません。
遺言の有無による違い
相続手続きは、遺言の有無で「遺言執行」か「遺産分割協議」のどちらかになります。
遺言がある場合は「遺言執行」となりますが、相続人全員の合意があれば、遺言に指定された遺産分割方法に反した分割も有効ではあります。
遺言がある場合
遺言があり、それが「自筆証書遺言」、または「秘密証書遺言」である場合は、家庭裁判所の検認手続が必要となります。
検認を受けていない遺言書では、不動産の登記手続きや金融機関の手続きも出来ません。
遺言に遺産分割禁止期間がある場合、その間は遺産分割が出来ません。
遺言通りの相続分で相続し、財産目録や相続関係説明図があり、相続人や相続財産なども確定している場合は、そのまま相続手続きへと進みます。
遺産分割協議
各相続人は、遺産分割の禁止の遺言がない限り、いつでも分割を請求することが出来ます。
相続人どうしで協議ができる場合は、自由に相続分を決めることができます。
また、相続人間の協議が不調で遺産分割ができない場合は、家庭裁判所に分割の請求をすることができます。
相続人の確定
遺産分割協議は、必ず相続人全員で行う必要があり、一部の相続人を除いてなされた遺産分割協議は無効とされます。
たとえば、亡くなった方に認知された隠し子がいて、それを知らなかった場合は遺産分割協議が無効となってしまいます。
ですので、遺産分割協議の前に、亡くなった方の出生時から死亡時までの戸籍・除籍・改製原戸籍の謄本をすべて確認し、相続人を確定させる必要があります。
もし、相続人の漏れがあった場合は、相続手続完了後でもやり直さなければなりません。
亡くなった方の最後の本籍地の役所で、出生から死亡までのすべての戸籍等が取得できればいいのですが、なければ、転籍等してきた先の本籍地を管轄する役所に戸籍等を請求することになり、出生までを追っていくことになります。
戸籍は、平成6年にそれまで紙形式で管理されていたものを電子データとして管理して良いこととなりましたが、すべての市区町村で戸籍の電算化が行われたわけではありませんので、改正前の紙で作られた「改製原戸籍(古い戸籍)」が存在している可能性もあります。
戸籍・除籍謄本・改製原戸籍により相続人が確定した段階で、相続人全員の戸籍も取得する必要があります。
相続関係説明図を作成し相続登記の際に提出すると戸籍等の原本を返却してもらえます。他の手続きでの使用や、今後の相続登記のために残しておきたい場合などには、相続関係説明図を作り戸籍の原本を返却してもらいましょう。
相続人の中に下記の者がいる場合は、遺産分割協議を行う前に家庭裁判所に申立て等を行わなければなりません。
- 判断能力が精神上の障害により不十分な者(成年後見の申し立て)
- 未成年者(相続人の中に親子関係のあるものがいる場合、特別代理人の選任)
- 行方不明者(不在者財産管理人選任等)
※借金、債務等のマイナスの財産は遺産分割の対象とならず、法定相続分により各相続人が負担することとなります。(債権者が認めない限り、借金の遺産分割は債権者に対抗できません。)
相続財産の確定
相続財産には現金のほか、不動産・金融資産(貯金や株等)・動産(乗用車、貴金属等)、および借金などの負債があります。
- 不動産
- 固定資産税の納税通知書から、「不動産登記簿謄本(全部事項証明書)」、「固定資産税評価証明書」を請求・取得する。(固定資産税評価証明書を請求する際、「請求した土地・建物以外に被相続人の所有している不動産がある場合は発行のこと」と明記する。)
- 金融資産
- 通帳、カードなどから銀行口座を確認し、「残高証明書」を請求・取得する。
株式などの有価証券はそれらを扱っている金融機関や証券会社などに「評価明細書」の発行を依頼する。
借金が、どこに、どの程度あるのか分からない場合は、信用情報機関などを利用し借金の調査を行う。 - 動産
- 乗用車、貴金属、骨董品など価値のあるものが対象となります。
衣服など日常生活で使用するようなものは、形見分けとして良いでしょう。
遺産分割協議・遺産分割協議書の作成
特別受益(一部の相続人が生前贈与を受けたりしている場合)、寄与分(一部の相続人が長期の介護療養をしたり、入院や治療費等を負担している場合)を考慮し、遺産をもとに相続人全員で遺産分割協議を行います。
相続税が発生する場合は、誰が、どのくらい負担することになるのか、といった点も検討します。
遺産分割協議書には、誰が、どの財産を、どれだけ取得するのか、を記載します。
のちに相続財産が発見される場合のことも考慮し、発見された財産は誰が取得するのかを記載するとよいでしょう。(記載がないものについては、再度遺産分割協議が必要になってしまいます。)
遺産分割協議書には各相続人が署名し、実印を押印します。相続人全員の印鑑証明書を各1通添付します。遺産分割協議書は各相続人が所持できるように用意します。
協議ができない、または協議が不調の場合には、家庭裁判所での調停手続をとることになります。
協議内容に基づいた手続き
遺産分割協議が成立し、遺産分割協議書を作成してから、それぞれの相続手続きをします。
- 預金の払い戻し(金融機関)
- 不動産登記(法務局)
- 自動車の名義変更(陸運事務局)
などを行います。