会社設立のメリットとデメリット

会社設立のメリットとデメリット

起業する前に知っておきたい会社設立のメリットとデメリット

新たに事業を始める時に会社化した方が良いのか、個人事業で始める方が良いのか、わからないことが多いかと思います。
また、すでに個人事業で始められている方も、どの程度の規模から会社にした方が良いのか悩んでいらっしゃるかと思います。
会社化したときにどのようなメリット・デメリットがあるのか、参考にしてみてください。

個人事業と会社の税金の違い

所得税と法人税

個人事業の場合

まず個人事業の所得税は所得に比例して税率が高くなっていきます。(累進課税)
課税の対象となる所得は、事業収入から必要経費・各種控除(基礎控除、配偶者控除等)を除いた「課税所得金額」となります。

課税所得説明

例)青色申告事業者で事業収入が800万円(経費を引いた収入が600万円)
事業収入800万円 – (必要経費200万円 + 基礎控除38万円 + 青色申告特別控除65万円 + その他控除7万円) の場合、課税所得金額は 490万円 となります。

所得税は下記表(2019年時)から求められます。

課税所得金額 税率 控除額
195万円以下 5% 0円
196万円~330万円以下 10% 97,500円
331万円~695万円以下 20% 427,500円
696万円~900万円以下 23% 636,000円
901万円~1800万円以下 33% 1,536,000円
1801万円~4000万円以下 40% 2,796,000円

上記例の場合
490万円 × 20% – 427,500円(控除額)552,500円 が所得税になります。

会社の場合

法人税は個人事業主の所得税と同じく、会社の収益から経費等をひいた「課税所得金額」に課せられます。
法人税は下記表となります。

資本金 課税所得金額 税率
1億円以下 課税所得金額800万円以下の部分 15%
課税所得金額800万円超の部分 25.5%
1億円超 25.5%

例)事業収入が1600万円で、給料や経費等を引いた課税所得金額が400万円の場合、課税所得金額400万円 × 15% = 60万円 となります。

会社の売上から従業員の給料や経費などを差し引いた結果、利益がなければ法人税はかかりません。

法人税についての細かな説明は省きますが、法人税の算出については、会計上の収益や費用が法人税上の所得を計算する際の収益や費用にならないことがあります。(税務調整)

経営者個人の所得税

会社から自分への給料を支払うことになるため、その給料には個人事業主と同じく所得税が掛かります。
給与の収入金額から、給与所得控除・各種控除(基礎控除、配偶者控除等)を差し引いたものが課税所得となります。
一般的には給与所得控除がある分、同じぐらいの年収では個人事業主の方が所得税が高い傾向にあります。

上記例と同じく600万円の年収がある場合の給与所得控除は 600万円 × 20% + 54万円 の174万円に対して税金がかからないことになります。(給与所得控除の詳しい計算は省きます。)
この場合の所得税は (600万円 – 174万円(給与所得控除)- 38万円(基礎控除))× 20% – 427,500円(控除額) の 348,500円 となります。
経費やその他の控除などは考慮していませんので、目安としてお考えください。

住民税・事業税・その他

個人事業の場合

個人事業の場合、所得税の他に住民税・個人事業税・復興特別所得税(平成25年1月1日から平成49年12月31日までの間)が課せられます。

住民税について

地方により多少の違いがありますが、ほとんどの地域で税率は一律10%です。
前年の確定申告書に記載した所得金額が住民税を計算するベースとなります。控除額などに違いがありますが、住民税の課税取得金額は所得税の課税取得金額の算出方法とほぼ同じですので、所得税の課税所得金額がわかれば、おおよその見当は付けられると思います。

各種控除やその他の細かい説明は省きますが、前述の所得税の課税所得金額が490万円の場合は、年間でおおよそ49万円程度となります。
あくまでもおおよそです。

個人事業税について

個人事業税が課せられる業種は大きく分けて3つに分類されています。
8月頃に納税通知書と納付書が届き、第一期分(8月分)と第二期分(11月分)の2回に分けて納めます。

区分 税率 主な業種
第一種事業 5% 物品販売業、運送取扱業、飲食店業、不動産売買業、広告業、製造業、請負業 等
第二種事業 4% 畜産業、水産業、薪炭製造業
第三種事業 5% 医業、士業、デザイン業、美容業、クリーニング業 等
3% あんま・マッサージ又は指圧・はり・きゅう 等

ほぼすべての業種で課税対象となります。
個人事業税の課税対象金額は、事業収入から必要経費・専従者給与・事業主控除(290万円)等を差し引いた額となります。
所得控除の際の基礎控除や青色申告特別控除は含まれません。

例)事業収入が800万円
事業収入800万円 – 必要経費200万円 – 事業主控除290万円 の場合、課税対象金額は 310万円 となります。

飲食店業であれば、310万円 × 5% = 155,000円 となります。

復興特別所得税について

平成25年1月1日から平成49年12月31日までの間は復興特別所得税が課せられます。
基準所得税額の2.1%分の金額となりますので、所得税に2.1%上乗せされるということになります。
前述の所得税額が552,500円の場合は、11,600円程度となります。

会社の場合

会社の場合、法人税の他に法人事業税・法人住民税が課せられます。
会社から給料を貰うことになるので、個人には、事業主と同じく、所得税のほかに住民税・復興特別所得税が課せられます。

法人住民税について

法人住民税は、法人道府県民税と法人市町村民税の2種類があり、その中で法人税割額と均等割額 に分かれています。

法人住民税説明

法人税割額は、所得に応じて算出されるもので 法人税額 × 税率 で算出されます。税率は法人の規模や、各地方によって異なりますが、長野県ではおおよそ16%程度です。
法人税額が基準になっていますので、法人税額が0円の場合は課税されません。

均等割額は、所得に関係なく定額で決められていますので、赤字であったとしても支払わなければなりません。
こちらも法人の規模や、各地方により金額が異なります。
長野県の場合、資本金1,000万円以下で従業員数が50人以下であれば、法人市民税が5~60,000円程度、法人県民税が21,000円となっています。

ですので、赤字でも黒字でも毎年7万円程度の法人住民税は納税しなければなりません。

法人事業税について

法人事業税は都道府県に納める税金で、
取得 × 法人事業税率 から算出されます。
ですので、黒字でなければ0円ということになります。

法人税率も各地方により異なりますが、標準税率は下記になります。

所得金額 税率(26.10.1以後開始事業年度)
所得のうち年400万円以下 3.4%
所得のうち年400万円を超え800万円以下 5.1%
所得のうち年800万円を超える部分 6.7%

個人事業主と法人の税金まとめ

税金 個人事業主 法人
所得税 5%~ ×(経営者個人には5%~)
住民税 10% ×(経営者個人には10%)
復興特別所得税 所得税額の2.1% ×(経営者個人には所得税額の2.1%)
個人事業税 3%~5% ×
法人税 × 15%~(利益が無ければ0円)
法人住民税 × おおよそ16%程度(最低70,000円程度)
法人事業税 × 3.4%~(利益が無ければ0円)

個人事業の青色申告事業者で事業収入が800万円(経費を引いた収入が600万円)では

所得税 552,500円
住民税 おおよそ490,000円
個人事業税 155,000円(税率5%)
復興特別所得税 11,600円
合計 1,209,100円

法人で事業収入が800万円(経費を引いた収入が600万円)で、収入のすべてを給料で支払い利益が無かった場合

所得税
(経営者本人)
348,500円
住民税
(経営者本人)
おおよそ388,000円
復興特別所得税
(経営者本人)
7,320円
法人税 0円
法人住民税 おおよそ70,000円
法人事業税 0円
合計 813,820円

個人事業主と法人の保険の違い

社会保険(健康保険・厚生年金)と国民健康保険・国民年金

個人事業主の場合、国民健康保険・国民年金に加入する義務があります。
法人の場合は社会保険に加入する義務があり、社員を雇った場合は労働保険にも加入する義務があります。

個人事業主 国民健康保険・国民年金について

国民健康保険は市区町村ごとに運営されるため地域ごとに保険料が異なりますが、保険料の目安としては、おおよそ年収の6~8%程度となっております。
年収が300万円の方であれば、おおよそ年額21万円程度となり、月額にして17,500円程度の保険料となります。
また、個人での加入となるため、配偶者がいる場合は配偶者も加入する必要があります。

保険料金額は自治体により差がありますので、正確な金額が知りたい方は各市区町村の担当窓口でお調べください。

国民年金に関しては皆さんも良くご存じかと思います。
国民年金の保険料は、平成27年度で15,590円、納付率は60%程度となっております。
お年寄りの方は長生きし、子供はそれ程増えていない現在、どう考えても難しいだろうという話は一旦置いておきまして、基本的には義務です。
こちらも個人での加入となるため、配偶者がいる場合は配偶者も加入する必要があります。

法人 健康保険・厚生年金について

健康保険は個人事業主の国民健康保険に代わるものです。
保険料は収入により変わります。保険料は会社と従業員の折半になりますので、従業員を多く雇うとその分会社の負担は増えることになります。
月収(標準報酬月額)が20万円の人であれば、おおよそ月額10,000円程度となります。
配偶者がいる場合で、配偶者の年収が130万円未満であれば、扶養家族にすることで配偶者の保険料は免除されます。子供も同じく扶養家族になれます。

厚生年金は、国民年金 + 上乗せ の制度です。
健康保険と同じく、保険料は収入により変わります。保険料は会社と従業員の折半になりますので、従業員を多く雇うとその分会社の負担は増えることになります。
月収(標準報酬月額)が20万円の人であれば、おおよそ月額18,000円程度となります。
こちらも配偶者の年収が130万円未満であれば、扶養に入ることで国民年金の納付が免除されるという制度があります。(第3号被保険者)
年金保険料を支払っていないのに国民年金が貰えるという何だかよくわからない制度です。

保険料まとめ

個人事業主(年収600万円) 法人(月収50万円)
保険料 国民健康保険
35,000円程度
健康保険
25,000円程度(会社負担 25,000円程度)
国民年金
15,590円(平成27年度)
厚生年金
45,000円程度(会社負担 45,000円程度)

どちらが良いかは一概には言えませんが、扶養の制度があるという面から考えれば、配偶者や子供がいらっしゃる方にとっては社会保険の方がメリットが大きいかも知れません。

国民健康保険料は上限額が決まっていますので、所得が1,000万円を超えるような方ですと個人事業の方が得になるかも知れません。
税金面もありますので、いろいろな状況を考え総合的に判断されると良いかと思います。

その他メリット・デメリット

その他メリット・デメリット

信頼感
個人事業と会社(法人)の一番の違いは、信頼感かと思います。一般的に、同じような内容の仕事をしている個人事業と会社では、やはり会社の方が信用面で有利になります。

また、事業を拡大していくことを考えれば、融資や雇用面でも会社の方が有利になります。
同じような仕事内容で個人事業主と会社が求人を出せば、通常は会社の求人の方が応募者が多くなるでしょう。

経費の幅
法人にした方が経費として認められる幅が広くなります。法人の場合、退職金などを支払うことが出来ますが、個人事業では支払うことが出来ません。
家族への給与
個人事業では青色事業専従者給与として税務署へ届出をしていなければ、原則として家族に給与を支払えません。

法人では制限がありませんので、実際に事業に従事していれば家族に自由に給与を支払うことができます。家族に給与を支払うことで、所得分散をして所得税、住民税を節税することが可能になります。

交際費
個人事業の場合、交際費に上限はなく経費として認められれば、いくらでも経費にすることが可能です。

法人の場合、年間800万円または飲食費の50%までが、交際費として経費になります。

社会保険
個人事業の場合、国民健康保険と国民年金に加入すればそれ以上の負担はありませんが、法人の場合、社会保険(健康保険・厚生年金)への加入が義務付けられています。保険料は会社と従業員の折半になりますので、従業員を多く雇うとその分会社の負担は増えることになります。

国民年金に比べて、厚生年金の方が貰える額がかなり多いので、保険料が高いから悪いというわけでもありません。

事務負担
個人事業より法人の方が一般的に事務手続き(社会保険や労働保険、登記手続き等)や会計処理等は複雑になります。
個人事業では会計ソフトで会計処理が出来ますが、法人の場合、会計ソフトで会計処理したとしても、最終的には税理士などの専門家に見てもらう必要があるでしょう。
負債
個人事業での負債はすべて経営者個人にかかってきますが、法人(株式会社、合同会社)の場合、出資の範囲内での責任となりますので、それ以上の責任はありません。
経営者個人が会社の借金の保証人になっている場合は別ですが。
相続
個人事業では経営者が亡くなった場合、すべての財産に相続税が掛かってしまいますが、法人の場合、会社の財産になっているものには相続税がかかりません。
ただし、株式会社を相続する場合であれば亡くなった方の株式を相続する必要があり、それには相続税がかかります。
合同会社は社員がいなくなった時点で清算手続きに入りますので、定款で相続させるように決めておかないと会社自体が無くなります。

以上、個人事業と会社の違いを簡単に比較してみましたが、それぞれにメリット・デメリットがあります。
社長になるというのは一つの夢でもありますので、自分に発破をかける意味でも思い切って会社としてスタートするのも良いのかもしれません。

一概には言えませんが、年間の利益が継続して500万円を超える水準であれば、一度法人化を検討してみるのも良いでしょう。税金のことを細かく調べて行くのは難しいので、税理士の方に一度相談してみるのも良いかと思います。